マレーシアには、特に注意すべき風土病があります。デング熱と言います。「テング熱」ではなく、「デング熱」です。天狗とは何の関係もありません。現地では「デンギー」と言います。もちろんマレーシアだけでなく、赤道付近の熱帯地域全域なので、約25億人が生活している地域一体に流行する病気です。なんと、予防ワクチンがなく、特効薬も無いという病なのです。やぶ蚊がその病原菌を媒介するため、熱帯地方では、殺虫剤を噴霧します。これをFoggingといい、この映像はマレーシアでのそのFogging業者の広告映像ですが、住宅地にこのように容赦なく大量の噴霧を行います。
私も、マレーシアに常駐することが決まり、気になりました。まず気付いたのは予防接種はないということ。そう、予防は単純に「蚊」から身を守るしかないということ。それが、今週のニュースで驚いたのは、埼玉県に住む10代の日本人女性が国内でデング熱に感染したと発表されたこと。日本国内での感染が確認されたのは約70年ぶりということで、この女性に海外渡航歴はなく、海外で感染した帰国者から蚊を介して感染したとみられると報道されました。
熱帯地方で感染し、そのまま帰国して、潜伏期間を経て発症するということはありえますが、渡航せずに発症するとは驚きました。確かに可能性は有ります。感染した海外渡航者が帰国、その感染者が「蚊」に刺され、その蚊が病原菌を媒介して、渡航歴のない国内居住者を刺した場合感染します。
地球温暖化により熱帯地方での感染者も増えています。マレーシアでは、今年年初37日間で感染が報告されたのは9453件で、17件の死亡。昨年の同期間では2559件の感染で、5件の死亡。今年は、Foggingの回数も増えています。一年中、毎日の気温が安定して33-35℃ぐらいの熱帯の国では、特定の流行の季節などありません。というわけで、どう見ても人体には有害な殺虫剤噴霧が必要なのです。マンションなどには、Fogging Noticeとして、予告が出て、殺虫剤アレルギーの人は窓を閉めるようにという注意を目にしますが、アレルギーでなくても有害に違いないと思いつつ、「デング熱」になるよりましと思うわけです。
デング熱の原因と発症率
主にネッタイシマカ、ヒトスジシマカなどのやぶ蚊がその病原菌を媒介します。ネッタイシマカには生息域に北限があるものの、ヒトスジシマカは日本に生息します。一回刺されてだけで感染すると言われています。もちろん、発症率は高くは無く、発症は疲労度、体力に依存すると言われています。デングウイルスに感染しても8割は無症状であり、それ以外も軽度の症状、例えば合併症を伴わない発熱症状が現れるだけがほとんど。しかし、5%の感染者では重症にまで発展し、さらにごく一部では生命を脅かすこともあり、この怖さゆえに、注意すべき病気と言われています。尚、人間同士の直接感染は起こりません。
デング熱の症状
潜伏期間(感染してから症状が出るまでの期間)は3日から14日。ほとんどの場合は4日から7日です。このため、デング熱の流行地域から戻ってきた旅行者が、帰宅してから14日以上経った後で、発熱やその他の症状が出始めた場合、デング熱である可能性は極めて低いといえます。
一過性の熱性疾患であり、症状には、発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、はしかの症状に似た特徴的な皮膚発疹もあるといわれます。
発熱期には、40℃以上の高熱が出ることがよくあり、全身の痛みや頭痛を伴う。通常、このような症状が2日から7日続きます。この段階で発疹の症状が現れるのは、50 – 80%。1日目または2日目に紅斑が現れるか、さらに4日から7日疾患段階が経過した後に、はしかに似た発疹が現れます。またこの時点で、点状出血(皮膚を押したときに消えないまま残る小さな赤色の点で、毛細血管の破綻が原因)がいくつか現れ、口や鼻の粘膜から軽度の出血がある場合もあります。
中には重症に発展する人もいます。重症に至る場合、それは高熱から回復した後であり、通常1日から2日続きます。この段階で、毛細血管の透過性が増し、水分の漏れが増加することで、胸腔や腹腔に多量の水分が溜まる場合があります。これにより、血液量減少が生じたり、循環性ショックが生じたりします。またこの段階では、臓器障害や大量出血が、一般的には消化器で起きることがあります。デングショック症候群と呼ばれる循環性ショックやデング出血熱と呼ばれる出血が発症する割合は、全症例の5%未満ですが、以前に他の血清型のデングウイルスに感染したことがある場合(つまり、二回目の感染の場合)は、そのリスクが増えます。
デング熱の治療法
デング熱に対する有効な抗ウイルス薬がなく、対症療法が主体となるといった治療しかありません。デング熱にはいま起きている症状を軽減するための支持療法 (supportive therapy, supportive care)が用いられ、軽度または中等度であれば、経口もしくは点滴による水分補給、より重度の場合は、点滴静脈注射や輸血といった治療が用いられます。
考えてみれば、一番卑近な病である風邪、つまり感冒は、症状を軽減させる治療法しかないのですが、ウィルスに合った抗生物質が処方されれば、快方に向かうのは早いです。
デング熱の場合、簡単に言えば、決まった症状が経過するの間、体力を温存して、抵抗しつつ過ぎ去るのを待つだけが治療法なのです。なんとも歯がゆいのが現状です。
デング熱の予防法
ワクチンがなく、予防接種も受けられません。要は、「疲労時に蚊に刺されないようにする」ということになるので、長袖や長ズボンを着用し、素足でのサンダル履きなどは避ける、虫除け剤を使用し、屋外だけでなく屋内でも蚊に刺されないようにする。室内の蚊の駆除を心掛けるなどが予防法となります。我が家の携帯常備予防薬はこれです。レモングラスの成分でできている虫よけスプレーで、人体に無害です。
生息地は藪・墓地・公園・人家など。植木鉢の受け皿に溜まった水のような小さな水溜りでも発生するので、人家の近くには、少なくとも人工的な水たまりは作らないようにすることです。例えば、古タイヤを捨てたままにするとか、空き缶や空き瓶も放置は要注意。日本でのやぶ蚊の出現期は5月から11月ごろと考えられるので、この時期は要注意。
ちなみにマレーシアでは、インフルエンザもほぼ一年中、注意が必要で、デング熱と症状が似ているので、発熱して医者にかかると、たいてい療法の病気を疑い検査します。しかし、検査でもまたデング熱の場合、初期症状を見分ける検査薬があるわけではないので、他のウィルス性疾患と見誤ることもあるとのことです。
デング熱とは本当に厄介な風土病です。また現地の人たちは2度目が危ない(ショック死の可能性が高まる)と言って恐れています。